My ARTS&SCIENCE – Sota Atsumi

このブーツとの出逢いの話です。ARTS&SCIENCEショールーム開催の際に、ソニアさんに「料理を作って」と頼まれたのがきっかけだったと思います。当時、自分がシェフを務めていたレストランにソニアさんが食べに来てくれていて、自分もA&Sのパリのショールームに通っていたこともあり、依頼は会話の自然な流れでした。「こんな料理を」というような具体的な注文は一切なく、「料理を作って」の一言だったと記憶しています。当日は、深夜1時を過ぎてもイベントは続くほど盛況でとても楽しかった。ソニアさんから「こんなにお客さんが帰らなかったことは初めて！きっと次々と出てくる料理が食べたいのよ」と喜んでもらえて嬉しかったです。後日「お礼に」と、そこからずっと履き続けることになるブーツをいただきました。

このブーツは、かっこいい、履きやすい。あと、“キッチンの中でも履けるかっこいいブーツはこれ以外にない”です。自分にとっていちばん重要なのは仕事がしやすいかどうかですが、自分が知る中で、キッチン内で履けるブーツはこれしか知りません。常に２足持っていて、外出用と日常用。本当に毎日履くので（笑）。つねに“もらって一番嬉しいもの”と言っているせいか、誕生日に義父や妻がプレゼントしてくれたり、もちろん自分で購入したり。新しいブーツがくると、それまで履いていたものが日常用になり、新しいものは履いたら箱に戻してしばらく外出用です。夏でもほぼ毎日履いています。というのも、レストランの営業中は常にこのブーツだからです。履かない日があるのは、フランス中がバカンスになり、レストランを閉める８月くらい。夏は仕込みがサンダル、営業時間中はこのブーツに履き替えます。夏以外はとにかく、営業日は朝から夜中まで一日中履いていて、外出もこのブーツ。世界で一番履いているのは自分だと思っています。色は一貫して黒。A&Sが好きな理由のひとつに“その時一番いい素材を使う”というのがあるのですが、それゆえに同じ色を選んでいても、その時のモデルで少しずつ違うんです。そこは、自分の料理に対するものづくりと同じ姿勢なので、その時一番いい食材で料理をする、そしてつま先までその時一番いい素材の服を着て靴を履く、それって自分の料理に向き合うためにも無関係ではないと思っています。今のモデルは、靴底の作りとか、より仕事がしやすくなって気に入っています。

ブーツの他に、パリのレストランのユニフォームもA&Sなのですが、すごく着心地がいいです。普通の日常を過ごすのとは違って、レストランでのサービスや料理をする動きは特殊だと思うのですが、とにかく邪魔にならないことがありがたい。着心地がいいに加えて、本当に秒単位で動く中で邪魔にならない服というのはなかなかありません。それから、サービススタッフも営業中は全員このユニフォームを着ているのですが、みんなカッコよく見える。人種・体型に関係なくこのユニフォームを着ると誰でもMAISONのかっこいい一員になります。それもすごいことだといつも思います。そして何より、たくさん洗っても、いまだにヘタレないしボタンも取れません。綺麗に干せばアイロンも要らない。忙しい自分たちから服に対しての要求は、普通では考えられないレベルだと思うのですが、このユニフォームはカッコよくしてくれるだけでなく、自分たちに余計な時間と手間をかけさせない。すごくありがたい存在です。

ふだん身に着けるものを選ぶ際にも、料理とレストランへ向き合うのと同じ感覚かもしれません。その時一番いいと思える素材を使いたいし、居心地の良い空間を作りたい。最先端の流行を追うよりも10年後思い出しても美味しかったと色褪せないものを作っていきたい。仕事をしていない時も自然とその姿勢で生活している気がするので身に付けるものもそうやって選んでいると思います。A&Sは10年後も着られると思うから、今はまだ6歳の娘の背が伸びたら一緒にA&Sを着てほしいと思うし、まだ息子は３歳ですが、自分の服を息子も着るなんて、めちゃくちゃかっこいいと思います。お皿とか、包丁とかまな板とか、ほしいものは仕事に関するものばかりですが、どれも新品の時よりも使っていくことでよりいいものになっていく、世の中新品が一番かっこいいってものも多い中で、時間が経っても色褪せないもの、経年変化も楽しめるもの、自然とそんなものを選んでいる気がします。