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Interview with Mariko Tsuchiyama

イギリスの海辺の街・ブライトンを拠点にジュエリー制作を行うデザイナー、Mariko Tsuchiyama氏。個性豊かなパールや石との出会いから生まれるジュエリーは、どれも唯一無二の存在感を放っています。制作に対する姿勢やパールへの思い、そしてARTS&SCIENCEとの別注制作を通じて生まれた発見について、お話をうかがいました。

素材との対話から始まる

  • ものづくりにおいて、最も大切にされていることは何でしょうか?

    • Mariko Tsuchiyama(以下MT)

      インスピレーションを与えてくれる素材との出会いです。自分の目で見て、手で触れて選ぶことを大切にしているのですが、なかでもいびつな形や強い個性を持つパールや石に惹かれます。そうしたユニークな表情に触れると、自然とデザインが浮かび始めます。

      素材と丁寧に対話しながら制作を進めていくことで、ひとつひとつのジュエリーに物語が宿るように感じています。また、素材だけでなく、印象に残った人や映画、記憶の断片なども、インスピレーションの源になっています。

  • ブライトンを拠点に選ばれた理由は?

    • MT

      海のそばという環境が、心を穏やかにしてくれます。細かな制作作業に集中したあと、ふと海岸線を眺めると感覚が開かれ頭の中がすっとクリアに。そんなとき、新たなインスピレーションが自然と湧いてくるのです。

ブライトンのアトリエ
制作風景
  • すべての留め具を手作業で制作されていらっしゃいますね。

    • MT

      バロックパールやソルト&ペッパーダイヤモンドのように、個性的な色や形、内包物を持つ素材には、整った既製の留め具よりも手作業で仕上げたものの方が自然と馴染みます。わずかな揺らぎや不完全さが、かえって素材の個性を際立たせてくれる気がします。

パールの静かな力に魅せられて

  • パールにフォーカスされるようになったきっかけを教えてください。

    • MT

      どの角度から見ても正面になるような潔い佇まいや、完璧な円が持つ静けさと緊張感がデザインに凛とした芯を与えてくれるようで惹かれました。また、幾何学的でグラフィカルな形のパールに触れると、自然とアイデアが湧いてきます。白い宝石に惹かれるのは、昔からモノトーンの服を好んでいたことや、母の装いの影響もあるのかもしれません。私にとってパールは、宇宙的な広がりや静謐さを感じさせてくれる特別な存在なのです。

  • 日常的によく使用されるパールの種類と、その魅力とは?

    • MT

      長崎のあこやパール、南洋の白やゴールドが美しいサウスシーパール、そしてタヒチのブラックパール。これらの三種類は、私が特に多く使うパールです。また、芥子パールも欠かせない存在。このパールは、砂や小さな異物が偶然貝の中に入り込み、その周りに真珠層が自然に巻きついてできる核を持たない真珠です。名前の通り、ケシの実のように小さく、その偶然のかたちにはかけがえのない個性があります。芥子パールは、あこや、サウスシー、タヒチアン、どの種類のパールにも存在していて希少です。

      いずれのパールも、照りや色味に繊細な輝きがあり、肌にのせたときの存在感が際立ちます。形が不揃いであっても気品があり目が離せません。

サウスシーパールによる新作
サウスシーパールのピアスと、タヒチアン芥子・あこやパールのネックレス
  • 「完璧ではないパール」に惹かれる理由についてうかがわせてください。

    • MT

      不完全な形に美しさを感じるのは、学生時代の茶道の経験に由来するのかもしれません。歪みや経年によって色味が深まっていく様子、自然が生み出す造形の中に宿る、唯一無二の個性に強く惹かれます。

  • パール以外で惹かれる素材はありますか?

    • MT

      ダイヤモンドです。インクルージョン(内包物)にその石の歴史を感じます。

A&Sとの対話から生まれるジュエリー

  • 今回のトランクショーに向けてA&Sのために別注制作されたネックレスについて教えてください。

    • MT

      Silent Fog Necklace(タヒチアンパール)は、イギリスの曇り空や霧の風景をイメージしました。グレーの色味でコンテンポラリーかつミニマルな印象を与えます。タヒチアンパールは大ぶりで身につけたときの重厚感が心地よく、私が特に好んで使うパールのひとつです。巻きの厚い上質なパールなので、幾重にも重なる真珠層に光が反射し、美しい照りが生まれます。

      Whispering Dandelion Necklace(ゴールドサウスシーパール)は、春の訪れを告げるたんぽぽの姿が重なって選びました。穏やかな海流の中で手間と時間をかけて丁寧に育まれる、その背景にも心惹かれます。ハニーのようなとろりとした質感と、一珠ずつ異なる色味が生み出す個性。魅力的なネックレスに仕上がりました。

タヒチアンパール
ゴールドサウスシーパール
カスタムオーダーで選べる留め具のバリエーション
  • A&Sとの取り組みのなかで印象的だったことはありますか?

    • MT

      A&Sはブランド立ち上げ後、初めて取引を始めさせていただいた日本のお店です。シルバーのパーツをゴールドに変更したいというご要望をいただいたのですが、ネックレスのクラスプをゴールドに変えることで、パールに温かみとエッジが加わり力強い印象に。新たな発見でした。昨年のトランクショーで初めてA&Sのお客さまにお目にかかり、それ以来、皆さまのお顔やお好みを思い浮かべながら制作する機会が増えています。
      A&Sのクリアなアイデアをジュエリーとして形にすることを、私はとても楽しんでいます。

現在、A&S青山にて〈mariko tsuchiyama〉のトランクショーを開催中です。別注アイテムに加え、最新コレクションもご紹介しております。

8月9日(土)〜11日(祝・月)の3日間は、リング・ブレスレット・ネックレスを対象としたカスタムオーダー会を実施。初日の9日(土)には、Mariko Tsuchiyama氏が在店し、直接お話をしながらお好みのジュエリーをご相談いただけます。この機会にぜひご来店ください。

EVENT

mariko tsuchiyama トランクショー&カスタムオーダー会

DATE

2025年8月1日(金) — 8月24日(日)/ 11:00 – 19:00
火曜定休

SPECIAL

〈カスタムオーダー会〉
8月9日(土) — 8月11日(祝・月)
デザイナー在店: 8月9日(土)/ 13:00 – 18:00

STORES

A&S AOYAMA

PROFILE

Mariko Tsuchiyama

長崎県生まれ。大学を卒業後、東京に移り仕事をする内に、よりクリエイティブな制作の仕事への想いを募らせ、渡英。ロンドンのデザイン学校でジュエリーの基礎を学び、その後香港、パリで暮らした後、2016年自身のブランドを立ち上げる。「A Reflection At Sea」をテーマに、自然界のストーリーを意識したコレクションを展開中。それぞれ形の異なるパールに合わせて制作され、二つと無いデザインが特徴的なジュエリーは、年齢や性別、国籍を問わず様々なバックグラウンドの人たちを魅了している。A&Sでは2017SSシーズンから取り扱いをスタート。