A&S代官山、そして、新しい店となる材木座へ。
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A&S(以下A)
佐々木さんにA&Sの内装に関わっていただき、およそ20年が経ちます。ソニアからの信頼も厚く、いつも新しい発見と共に必ずヒットを打ってくれる方という印象です。2018年に現在の場所にオープンしたA&S代官山は、一軒家の物件との出会いがあって誕生した店でした。ソニアと一緒に物件を見に行った時に“アルミ”という内装テーマが降りてきたそうですね。
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佐々木(以下S)
金属系の仕上げに関してはそれまでの店舗でやり尽くしたような気持ちもあったので、アルミは新鮮に思えました。 溶接が難しく加工しにくい素材で経年変化も独特です。代官山店ではサッシュや手摺、什器に使用しています。僕はできるだけ、ソニアさんを悩ませないように、自分で判断できる良し悪しは全部済ませてから話すようにしていて。本当に判断に迷うところを相談すると、また新しい話が聞けるので、ほかの部分もどんどんアップデートされていくんですよ。
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A
共同作業の面白さがありますね。このA&S代官山は、閑静な住宅街という立地もあり、近隣の方々も気軽に足を運んでもらえるような、ゆっくりと買い物ができる店にしたいというイメージがあって。
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S
静かな環境で、建物自体は1970年代頃の外国人向け住宅のようでした。やはり建物ありきで、それをどう生かすかなんです。自然光がふんだんに入って自分の家のように落ち着ける空間。そんなことを考えて作りました。
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A
鎌倉の材木座も物件との出会いがきっかけでした。鎌倉に店を開くのはソニアの念願でもあり、実は10年以上前から探していました。材木座は鎌倉駅からやや離れていることもあり、決める前に佐々木さんに実際に見ていただきましたね。
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S
地域に根付いた90年以上続く薬局とのことで、とても興味を惹かれました。ソニアさんと一緒に見に行った時には前のオーナーさんがまだいらっしゃって、とても丁寧に住まれていると感じました。お人柄があらわれていて、この地域で今までどう在ったのかも想像できました。
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A
地域の皆さんに愛されていた薬局というところにも、ソニアはストーリーを感じたようです。同じように、店には生活の必需品を並べ、地域の方々にも愛される店にしたいと願っていましたので。改装される際にはどのようなプロセスがあったのでしょうか。
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S
まずは、建物自体を理解することから始めました。全ての梁や柱の構造を見るために一度スケルトンにして、骨組みだけの中で動線と採光、構造補強を考慮しながら開口部を決めていきました。一階の天窓もこの段階で浮かんだアイディアです。店内から見える景色の切り取り方や、時間帯によっての採光を見きわめるのは、現場でしかできない作業です。
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A
佐々木さんが一番気に入っているところはどこでしょうか?
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S
一階の2ND FLOORのエントランスを入ると、サンルームを経て中庭越しにA&S材木座の店内がうかがえます。この流れがすごく綺麗だなと思っています。風の通り道にもなっていて、店の外と中、ふたつの店が繋がる空間です。中庭の造園は<TSUBAKI>さんに依頼しました。リンボクの花や紫陽花など、季節を感じられる在来種を中心に構成されています。
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A
中庭はこの店のポイントでもありますね。以前ソニアが南仏の海辺の街を訪れた時に、海の近くに小さなエルメスのショップがあって、水着を置いていたり、とてもユニークな品揃えだったそうです。この店も、週末や夏の休暇を鎌倉で過ごされている方にも立ち寄ってもらい、歩いてすぐの海辺を散歩したり、2ND FLOORでランチやワインを楽しみながらゆったりと過ごしてもらいたいです。カフェでは地産地消を意識したメニューやナチュラルワインもご用意しています。
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S
2ND FLOORはA&S代官山と同様に暖炉を設置しています。火があることで空間も料理も豊かに感じますよね。ステップフロアでキッチンの床を低くすることで、親密な雰囲気が出るようにも考えました。
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A
材木座の店と他店との違いはありますか?
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S
考え方は変わりません。基本的に内装デザインはシンプルで上質、長く使えることをいつも心がけています。建物と場所ありきで、その中の何を活かして計画するかなんです。インテリアデザインというと表層だけを提案しているように思われがちですが、A&Sの店舗ではその裏側や、奥にある精神的な部分まで感じてもらいたいと思っています。
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A
日本では、建築家の方は構造を、内装はインテリアデザイナーと役割が分かれているように思います。ヨーロッパではなかなか新しい建物が建てられないので、内装も建築家が手がけることが多いと聞きました。佐々木さんのお仕事は、そういう意味では建築に近いのではないでしょうか。
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S
どうなんでしょう。既存の建物がベースとしてありますが、表面だけでなく構造や設備もほぼ入れ替えます。内外の関係も考慮しながらの設計なので、建て直している感覚には近いかもしれませんね。
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A
店舗は誰もが立ち寄れるパブリックな場所でありながら、A&Sの大切な表現の場でもあります。この鎌倉のグレーの壁も左官仕上げでしたね。違いがわかる人は少なくても、「この空間、なんかいいな」とみなさんに感じてもらえると嬉しいですよね。
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S
そうですね。内部は左官仕上げで、樹脂モルタルの色を調整しつつ塗り込み、最終的に研磨仕上げを施しています。丁寧に職人が手をかけているものなので、ペンキとは違って奥行きが感じられます。その分手間がかかり、工期も長くなってしまうのですが。
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A
ソニアの服作りの哲学と同じですね。佐々木さんにお願いする理由もそこにあるように思います。さらに、初期から共に歩んできたからこその安心感や、一緒に作り上げる世界観の面白さがあるように思います。ソニアとのコミュニケーションで心がけていることはなんでしょうか。
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S
要望を聞き取り、ちゃんと自分の意見も言うことです。会話の中で姿が見えてきたら、絵を描きつつ具現化していきます。A&Sとしてどうあるべきかという部分は、自分なりに理解しているつもりです。デザインにおいて心がけているのは、賑やかしをしないことと違和感を作らないことです。モノクロで上質、簡潔なディテールであることを大事にしています。ただ、この考えは一般的ではありませんよね。絵が全然映えないから、デザインコンペでは採用されないでしょう。でも、その辺りを理解していただけているのが本当にありがたいですね。自分に嘘をつかずに、いいものを作れている気がします。
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PROFILE
佐々木一也
SMALLCLONE co.,ltd.
1977年岩手県生まれ。関東学院大学工学部建築学科卒業。1999年より、EXIT METAL WARKS SUPPLY~LINE INC.勤務を経て、2008年に独立。同年、設計事務所SMALLCLONE co.,ltd.を設立。