酒と音楽に明け暮れる学生時代を経て、酒を仕事に
大学時代、ブルーノート大阪(現在は閉店)のバーやワインを統括する人がたまたまアパートの隣に住んでいたんです。当時の二十歳(はたち)前後の青年の例にもれず、新しく出会う酒と音楽に没頭していた頃ですから、彼と過ごす時間がそれはそれは楽しくて。週に5、6日、つまりほぼ毎日一緒に酒を飲んでいました。大学を卒業するとき、さて何の仕事に就こうと考えたとき、「酒くらいかな、人より経験を積んだといえるのは」と思い返し、酒類を扱う商社に就職しました。そこでワインに本格的に興味を抱くようになったんです。
「土地とぶどうと人」を表現するワインを、伝えていくこと
商社に勤め始めてほどなくして、今でいうところのナチュラルワインに出会いました。当時はそんな呼び名もなかったのですが、とてつもない感銘を受けたんです。その日以来、今に至るまで「土地と、ぶどう品種、人(=造り手)」を表現するワインを伝えたいという気持ちで仕事をしています。店を開いたのも、まだ知られていなかったワインを伝えたいという気持ちから。〈エーテルヴァイン〉の店づくりも、造り手たちへの敬意から生まれた形です。ワインに優劣はつけたくない。高価なワインもデイリーワインも、人気のレアワインも今ひとつ目立たないワインも同じようにセラーで管理する。おすすめは「店で扱うすべてのワイン」ですから、陳列もフラットにしています。
グラスは、ワインの感じ方を変えてくれる媒体
たまに、同業者や友人たちとグラス談議になるのですが、前提として「ワインそのものは変わらない」ですよね。とあるグラスに注いだからといって、ワインそのものの質が上がるわけではない。逆もしかり。当たり前といえばそうなのですが、グラスという媒体は、ワインの感じ方を変えてくれるものなわけです。そう考えると、舌までの距離や液体が流れ込む速度など、さまざまなことを緻密に計算し尽くされて造られたグラスが、皆に同じ感覚を与えているのかな、という疑問が湧いてくる。口の大きさや歯並び、口と鼻の距離、つまり頭蓋骨の構造は一人一人違うわけで。出口のない思考ですが。
上品な重み。自然と手がのびるワイングラス
グラスメーカーの方やソムリエの方のように、グラスについて日々検証しているわけではないのですが、何種類かのグラスを揃える中で「ŒNOLOGY」シリーズのGRANDS BLANCSをよく使っています。気付いたら手がのびている。まず飲みたいワインがあって、グラスを選ぶわけですが、服を選ぶときにパンツを決めたら、自然とあるシャツを選ぶ、そんな感覚に似ています。その魅力を改めて考えたとき、まず浮かんだのは、“重さ”かな、と。驚くほど軽くもなく、変に重くもなく、持ったときに心地いい。重さに“質”があるなら、上品な重量感というか。この手から伝わる感覚が独特で、その心地よさを手で感じながらワインを味わう喜びがあります。
少し奥ゆかしい、チャーミングなワインを
名前の通り、〈Baccarat〉が白ワインのために造ったグラスですが、僕はシャンパーニュなどのスパークリングワインや、ときにタンニンの穏やかな赤ワインもこのグラスで飲んでいます。今回、この話を頂いたので、改めてある白ワインをGRANDS BLANCSと、別のハンドメイドグラスに注いで、飲み比べをしてみたんです。注ぎたては、別のグラスに注いだワインが圧倒的に妖艶でした。対して少しおとなしい印象だったGRANDS BLANCSの方ですが、時間が経つと、少しずつ、全貌を露わにする。ムンムンというのとは違う、上品な開き方というか。あくまで僕の頭蓋骨での評価ですが(笑)。ともあれ、少し奥ゆかしい、チャーミングなワインを、時間をかけて飲むにはいいのではないでしょうか。手で触れていて心地よい感覚も長く楽しめますから。
ワイングラス選びから広がる、新たな日常の楽しみ
家に気に入ったグラスをいくつか揃えておくことは、ぜひおすすめしたいですね。生活がとても豊かになるので。グラスを選ぶ理由や基準というのは、必ずしもワインの味わいだけに限らない。同じワインでも、一人で飲むのか、友人たちと飲むのかで、また違ってきます。実は僕、GRANDS BLANCSを芋焼酎にも使っているんです。芋という植物と、蔵のある鹿児島西部の海沿いの土地のテロワールが詰まっている液体だと感じ、〈エーテルヴァイン〉で唯一紹介する焼酎なのですが、ストレートでちびちび味わうとき、このグラスととても相性がいい。〈Baccarat〉だなんて自分にはノーブル過ぎるのでは……と長いこと思っていた僕も、今は日常的にそのグラスを楽しんでいます。
Photos by Makoto Ito / Text by Kei Sasaki
PROFILE
江上昌伸
1974年大阪府生まれ。大阪のワイン商社に勤務した後、99年からは大学時代を過ごした京都へ戻り、ワインショップ勤務を経て2006年にethelvineを始める。2018年にはそのショップの近くにレストランDUPREE をオープン。
DOWN THE STAIRS(東京・青山)と2ND FLOOR(鎌倉・材木座)では、江上さんのお店〈エーテルヴァイン〉から届くナチュラルワインを楽しんでいただけます。ぜひ、お立ち寄りください。
- ITEM
Baccarat ŒNOLOGY GRANDS BLANCS for A&S
- MATERIAL
Crystal glass
- SIZE
H17.6cm, φ5cm (Rim), φ7.4cm (Plate)
- PRICE
¥33,000 (¥30,000 excl. tax)
- SHOP
OVER THE COUNTER, A&S MARUNOUCHI, A&S DAIKANYAMA, HIN / Arts & Science, Nijodori Kyoto, A&S FUKUOKA, A&S ZAIMOKUZA KAMAKURA
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