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Behind the Scenes – Bobby Mills

イギリスを拠点に木工家具やオブジェを製作するBobby Mills。日本初となる展覧会にあわせて、彼の生い立ちや木工作家として活動するに至った経緯、倒木のみを材料に木そのものと真摯に向き合う物づくりや、A&Sとの出会いから作品への思いを彼自身の言葉で綴っています。

The Artist

- 幼少期の記憶と体験

私は、イギリス南西部に位置するノースデヴォンに小さなスタジオを持ち、そこで1点物の木工作品を製作しています。モノとしての実用性と木材の性質。この両方と向き合い、対話をしながら作品を手がけています。壮大な自然の中で育まれた木の美しさと複雑さ、そのユニークな特性が使い手に伝わるものづくりを目指し、どの作品からも、素材となった木の生きた物語が感じられるといいと思っています。

私は、イギリス南西部に位置するノースデヴォンに小さなスタジオを持ち、そこで1点物の木工作品を製作しています。モノとしての実用性と木材の性質。この両方と向き合い、対話をしながら作品を手がけています。壮大な自然の中で育まれた木の美しさと複雑さ、そのユニークな特性が使い手に伝わるものづくりを目指し、どの作品からも、素材となった木の生きた物語が感じられるといいと思っています。

私は幼少期の大半をウエストサセックスの田園地帯で過ごしました。この地には素晴らしい樫の木があり、登ったり、幹の空洞に隠れたり… 遊び疲れたら縦横無尽に伸びる枝の陰で休みました。私にとって、この木はまるで古い友人のような存在です。数十年を経た今でも、その時の風景と共にこの木の存在を思い出して楽しい気持ちになります。

同じく幼少期のころ、よく父と一緒に古い建物を修理しました。その多くは木造で、道具や資材に触れることができる機会でした。伝統的な手法を父から教わり、小さな道具で木や石を扱う方法が身につきました。ある日、何百年も前に建てられた家のオーク材の梁を修理することに。古い建物に手を入れていくと、当時の大工たちの技法を垣間見ることができます。梁に刻まれた記号や数字、粘土瓦に残された名前を見つけることは嬉しい出来事でした。

- 写真への情熱と旅

学生時代は写真を学びました。UCA芸術大学で学位を取得後、20代は可能な限り旅をしました。キャンプ用のキャラバンで遊牧民のような暮らしを送りながら、今も愛用している古い木製のフィールドカメラで写真を撮る日々。カメラを使って自分が見ている風景を考察し、人と風景の繋がりを探る旅でした。西オーストラリアのゴールドフィールド、険しいヨーロッパの大西洋岸、静かな田園地帯。変わりゆく風景の中で、常に木の存在が心に引っかかるのです。木について考え、木を撮影し、時には木の根元で眠りました。それぞれの木が見てきた景色の変化に思いを馳せながら。

自分と木の繋がりを意識する旅の中で、木工職人と偶然出会うことが何度かありました。彼らとの出会いによって、木を扱ってみたいと思う気持ちが深まったのです。ポルトガルの古道を運転しながら、モロッコの狭い道を歩きながら、木を扱う様々な職人に引き寄せられました。

Campervan, Western Australia Goldfields, 2014
Cork Oak in Lupin meadow, Portugal, 2017
Beech, England, 2014
White Gum, Western Australia, 2013

- 木工作家としてのスタート

そして長い旅を終え、いざイギリスへ帰国することに。どこに住まいを定めるか決めかねているときに、農業や養蜂を営む1人の男性と出会ったのです。彼は、まるまる1本の樫の木を納屋に保管していました。キャラバンを置く場所と引き換えに、この樫の木で3つの養蜂用テーブルを彼のために製作することになりました。ある日、この木が300年以上もの間立っていた場所に案内してもらったのですが、この木が彼にとってとびきり大切な存在であることを知りました。この経験が木工をはじめるきっかけになったのです。今日に至る私の仕事の指針は、材料となる木を理解し、尊重し、畏敬の念を持ちながら、彼ら(木々)の物語を紡いでいくことです。

Olive trees, Tabernas Desert, Spain, 2017

From tree to stool

- “木”への想い

私の製作は木そのものと向き合うことから始まります。それぞれの持ち味と美しさを尊重し、全ての作品にそれらを反映させていきます。私の元に来る前、木は何世紀もの時間を経て、季節の移ろいとともに少しずつ形を変えながら成長してきました。その命を終えるとき、年輪が彼らの生きた証になります。私が手がける作品を、使い手が何世代にも渡り使っていくこと。それが木の命を寿ぐことになると信じています。
木は主に、厳選したイングリッシュオークとウォールナットを使用しています。オークはイギリスでは最も多い品種で、まろやかなハニーオークから野性味溢れるバーオークまで、その特性は多様です。イギリスには樹齢千年を超える木があり、その美しさと迫力には畏敬の念を抱かずにいられません。

- 木工作品が生まれるまで

製作に取り掛かる前に、じっくり木材と時間を共にすることにしています。木目を読み直し、独特の模様や色を眺めて楽しむのです。同じ木から切り出された木材でも、それぞれ違う個性があるのでこのプロセスはとても大切です。「どのような木なのか」を常に理解したいと思っています。

 

製作は自由にやっています。たまにラフスケッチを描くこともありますが、ほとんどの場合構想はありません。木が私の手を動かし、感覚的に進むべき方向に向かっていく…そんなイメージです。自然とのコラボレーションとでもいいますか。木の内面からデザインを見出す。これが私のやり方です。

 

製作には、手工具と木工旋盤を使っています。木の構造を活かしながら作業をしていくと、強度を損なうことなく美しい形状に削ることができます。例えば、嵐の最中に木を観察すると、大きく揺れることで風圧に耐えていることが分かります。根から枝の先端まで続く木目に沿って、しなやかに負荷を分散させているのです。このような自然構造を製作に取り入れることで、木そのものの強度と耐性を持つ作品に仕上がります。

  • 木工旋盤:木材を固定し高速で回転させる工作機械のこと。回転しながら刃物等を当てて削り出す「ウッドターニング」という技法で使われる道具

The Story from Bobby Mills

- ARTS&SCIENCEとの出会い

作品を託すパートナーとは、考えや気持ち、自然への思いなど、多くのことを分かち合えることが大切です。だからこそ、信頼できる人に作品を扱ってほしいと考えています。A&Sのオーナー ソニア パークとは2020年2月に出会いました。ロンドンにあるBLUE MOUNTAIN SCHOOLのジェームス ブラウンとクリスティー フェルスが紹介してくれたのです。以前、この2人に「私の作品を紹介してくれる人を1人選ぶなら?」と尋ねたことがあるのですが、すぐに「ソニア!」という返答があったことを鮮明に覚えています。そして、実際に彼女に会って様々な話をする中で、自然や木に対する思いが自分と近いことに感銘を受けました。この出会いを経てA&Sとのつながりが生まれたのです。日本ではじめて作品を見てもらえる場がA&Sであることに、とてもわくわくしています。

- 本展でご覧いただく作品について

A&Sのお客様にご覧いただくコレクションは、私にとって特別な作品です。時間をかけて集めてきた大切な木材を使う機会になりました。それぞれの作品から感じられる豊かな個性は、木々本来の性質から滲み出るものだと私は考えています。使い手が日々スツールに触れることで、それぞれの個性や木が呼吸をする材質であること、我々にとって大切な天然資源のひとつであることを感じてもらい、人と木に深い関係が生まれる。ひとつひとつのスツールがそんな存在になれば嬉しいです。単なる「家具」ではなく、私たちと自然をつなぐものとして、居心地の良い空間をもたらしてくれることを願っています。

PROFILE

Bobby Mills

木工作家兼写真家。イギリスのノースデボンに工房をかまえ、手作業で一点物の家具やオブジェを単独で製作している。独学で木の扱いや製作を学び、デンマーク出身の母親を持つことからスカンジナビアのデザインの影響を受けている。UCA芸術大学にて写真部門の優等学位を取得しており、手がける木工作品はすべて自身で撮影している。

TITLE

Bobby Mills展覧会

TOKYO

 A&S DAIKANYAMA
2021年5月21日(金) – 5月30日(日)/ 12:00〜18:00

KYOTO

HIN / Arts & Science
2021年6月4日(金) – 6月13日(日)/ 12:00〜19:00