下本氏の工房は、高知市を流れる鏡川を奥へと遡った山あいにあります。23歳のときに炭焼き職人を志して構えたこの場所は、かつて祖父が炭焼きをしていた土地でもあります。祖父から受け継がれた炭窯は今も現役で竹を燻すために使われています。
道具づくりの始まりは、炭焼きの合間に、余った竹で箸やスプーンをつくったことでした。身近にあり、直線的で、静かな表情を持つ竹。その素材性に惹かれ、次第に竹そのものと向き合うようになります。やがて、竹は制作の中心となり、暮らしの道具へと姿を変えていきました。
制作は、放置竹林に自生する竹を切り出すところから始まります。切り出した竹は熱処理を施したのち、炭窯でおよそ一週間かけて燻されます。中までしっかり乾燥させることで耐久性が高まり、外側は艶やかな黒へと変化し煤竹へと仕立てられます。
見た目の美しさだけでなく、使い心地や道具としての機能を大切にすること。 一本の竹を余すことなく使い切り、端材も燃料として活用すること。 放置竹林が「竹害」と呼ばれる現状に対し、竹に新たな価値を見出し、暮らしの中で生きる存在へと変えていくこと。 下本氏の制作には、自然と共にあるための確かな意志が息づいています。
下本氏は、2009年より個人で制作を始め、2022年に〈竹と〉を立ち上げました。現在は仲間と共に制作に取り組み、作家個人として培ってきた手の感覚と、チームとして広がりを持つものづくり、その双方を大切にしながら制作を続けています。
本展では、多種多様な竹による暮らしの道具がA&S材木座に集います。一堂に会するこの機会に、ぜひご覧ください。
PROFILE
1978年、高知県生まれ。愛称は「一歩=いっぽ」。23歳の時に祖父母ゆかりの地・高知市鏡吉原に炭窯を構え、炭焼き職人になる。炭焼きをしながら製作していた品々が評判となり、31歳で竹細工作家の道へ。自ら切り出した竹を燻して材料にし、暮らしの道具を作っている。