本展では、新作となるガラス段重を軸にご紹介するほか、日本の伝統色である藍色系統に属する「瓶覗色*」を表現した作品も。これらの新作と共に、定番の緑がかった透明色による作品もご覧いただきます。本展は、OVER THE COUNTERでの展示を経て、京都・HIN / Arts & Sceince、A&S福岡へ巡回します。ぜひお運びください。
「段重」によせて
長崎の奉行所跡から発掘された、17世紀の和製びいどろ*のガラス破片は緑色を帯びた型吹き段重の側面の一部だった。江戸の時代、豊かな生活を送った人々は、蒸し暑い夏に涼しさの演出として、びいどろ段重に夏の味を詰め楽しんだのであろう。
小澄正雄の手によるこのガラス段重は、その時代と同じ手法である型吹き*でつくられ、水や氷に見立てたガラスに涼を感じる、日本人の今も変わらない自然観や情趣性が表されている。蓋と本体がぴたりと合わさった段重の繊細で正確な仕上げに、作家の持つ技術の高さと日々重ねてきた鍛錬を垣間見ることができる。
*瓶覗色(かめのぞきいろ):藍瓶を覗いた程度に浸した布の色。瓶の水に映った空の色とも言われ、藍染のごく淡い青色を示す。
*びいどろ:当時のガラスの呼び名。ポルトガル語でガラスを意味するvidroに由来。
*型吹き:金属や土で作られた型にガラスを吹き込んで形作る技法。
PROFILE
ガラス作家。1979年熊本県生まれ。富山ガラス造形研究所を卒業後、2005年より富山県にて制作をはじめる。現在は岐阜県に工房を構え、個展を中心に作品を発表。どこか懐かしさを感じさせる薄い緑色のガラス器は、見た目よりかなり薄く軽く仕上げられている。静かで洗練されたさりげないフォルムで、和食との相性も良い。HIN / Arts & ScienceとA&S福岡に配されたロンデルガラスの製作を手がけた。