イ・キジョはソウルから車で1時間ほど離れた韓国 京畿道南部の都市・安城(アンソン)を拠点に制作を続けています。安城は、昔ながらの民窯がいたるところに存在し、歴史性の高い白磁も出土する珍しい場所です。その土地で、鶏を飼いながら農作物を育て料理し、自身の器に盛りつけ、食べる、という自給自足に近い生活を送りながら制作活動をしています。「陶芸はいつも私の生活の中に存在している」という言葉にもあるように、器は日々使うことによって命が吹き込まれ、価値が生まれると言います。
A&Sでこれまで2度開催したイ・キジョの展覧会では、ガス窯で焼いた普段使いの食器をご紹介してきました。今回は初の試みとなる“タルハンアリ”を中心とした展覧会です。“タルハンアリ”とは朝鮮時代中期に多く作られた朝鮮白磁の代表的な形のひとつで、大きくて丸い満月を連想させるためタル(月)ハンアリ(壺)と呼ばれています。芸術的観点からも注目度が高く、作陶技術の高さはもちろん素地となる胎土が非常に重要になります。以前から興味はあったものの、自身が手がける“タルハンアリ”に相応しい胎土が見つからなかった、という理由でこれまで制作を見合わせていたイ・キジョが、5年ほどの年月をかけて特別に開発した胎土を用いて本作品を作り上げました。
また、ガス釜ではなく、登り窯(薪釜とも言われる)が用いられているのも特徴です。李朝時代に韓国で発明された登り窯は、炉内を各間に仕切り、斜面等地形を利用して炉内を一定の高温に保てるよう工夫されています。技術による人為的な力と、胎土と火による自然の力というそれぞれの要素が作用して生まれた作品です。
本展では“タルハンアリ”の他に、登り窯で焼かれた器も並びます。胎土そのものの色、その魅力を備えたイ・キジョの作品を存分にお楽しみください。みなさまのご来店をお待ちしております。
PROFILE
陶芸家。1959年生まれ。ソウル国立大学修士課程を修了。韓国現代白磁の第一人者として、チュンナン大学芸術学部の教授を務める。アンソンにアトリエ兼自宅を構え、畑を耕し、鶏を飼う、ほぼ自給自足の生活を営む。李朝白磁の手法を基盤とし、シンプルで使い勝手のよい白磁の器を手掛けている。料理を楽しむ心が強く反映される彼の器は、多くのバリエーションが。日常使いの器としての魅力を兼ね備える。2012年よりA&Sで取り扱いを開始。