Loading...

Interview with William Welstead

2007年にARTS&SCIENCE で最初のトランクショーを開催したイギリスのジュエリーブランド〈William Welstead〉。12月22日(日)まで、A&S京都にて2024年のトランクショーを開催しています。「常に心に響く宝石を探しています。私のこだわりは、希少で上質な宝石を見つけることです」そう語るウィリアム・ウェルステッド氏に、ジュエラーになるまでの道のりや、インスピレーションを与えてくれる宝石についてお話をうかがいました。

ジュエラーへの道。宝石と自身の美学についての深い考察。

  • あなたの経歴について教えてください。

    • William Welstead(以下W)

      20代前半は自分が何をしたいのかが明確にわからず、とりあえずロンドンの投資銀行で2年ほど働きました。やがて私は旅にでることを決意し、まずメキシコを訪れました。その後に行ったネパールで、イギリスの援助プロジェクトに携わる友人たちから現地のマーケットを探索することを勧められたのです。最初の印象は、いずれの品も観光客を意識したような古めかしいものでしたが、掘り下げてみるとネパールの卓越した職人技があることを発見し、カシミアのストールやスカーフを集め始めました。インターネットが普及する以前の昔の話ですが、当時からノーブランドでもファッション的な価値があると直感したのです。

  • どのようにしてストールを広めていくことができたのでしょうか?

    • W

      NYでモデルをしている友人がいて、彼女のエージェントがバーニーズと関りがあったのです。ある日、その担当者に「ネパールのストールをもっと売りたいですか?」と聞かれ、私は即座に 「もちろん 」と答えました。後日「私の顧客のひとりがストールを見たいと言っているので、あなたの電話番号を教えてもいいですか?」と連絡をくれました。すると翌日、驚いたことに有名なハリウッド俳優(と同じく有名なパートナー)から電話がかかってきたのです。結果的に、彼らの映画に携わったスタッフ全員にストールを売ることになりました。そこから事態は急展開しましたね。

Combi Color Fringe Shawl (A&S 2012AW)
Trio Color Shawl S (A&S 2024AW)
  • A&Sのストールも制作いただいていますね。ところで、ネパールでの仕事をきっかけに宝石への興味を持たれたのでしょうか?

    • W

      父が金属の研究を専門とする科学者だったもので、幼い頃から私を科学博物館に珍しい石を見に連れて行ってくれたり、化石や鉱物を探しに出かけたりするなどして、私の好奇心を育ててくれました。自分で集めたものでコレクションを作るのが大好きで、今でも初期の頃に見つけたものをいくつか持っています。ですので、当然のように私はネパールで出会った宝石に魅了されました。チベットのトルコ石でできたビーズや宝石を少しずつ集めていくうちに、もっと理解を深めなければと思うようになり、ロンドンの英国宝石学会で宝石学を学ぶことを決めました。

  • どのようにジュエラーとしてのキャリアをスタートされたのですか?

    • W

      著名なジュエラーであるフレッド・レイトンが、インドのムンバイを拠点にするダイヤモンド・ディーラーの名門一族を紹介してくれたことが大きかったですね。彼らは、ヨーロッパでは失われた技術、つまり私がそれまで出会ったことのない昔ながらの技法を用いてダイヤモンドをカットすることを専門としていました。この一族の主人が私に時間を割いてくれたことで、宝石を本当に理解する最善の方法は現場に身を置くことだと悟りました。この縁がきっかけとなり、私はムンバイとジャイプールに定期的に足を運ぶようになり、そこでインド特有のカット・ダイヤモンドや鮮やかなカラーストーンを調達できるようになったのです。

  • ダイヤモンドをはじめ、あなたのジュエリーに用いられる宝石はどのような視点で選ばれているのでしょうか?

    • W

      宝石を選ぶ際は、個性と自然な美しさを大切にしています。近年、ダイヤモンドはますます商品化され、その価値は正確なパラメーターによって厳密に決められるようになっています。このような標準化は、ダイヤモンドの取り扱いにおいて一貫性を保ちますが、必然的にそれぞれの石の独自性を損ないます。対照的にインドの伝統的な技法でカットされたダイヤモンドは、原石の自然な形状が尊重されているのです。例えば、平らな原石はローズカットやフラットダイヤモンドに、細長い原石はブリオレットカットに加工されます。私はこのアプローチに深い魅力を感じています。

      カラーストーンもまた、私のジュエリーに欠かせない要素です。コロンビア産エメラルド、ビルマ産ルビー、サファイア、スピネルなど、私はすべての宝石を自然からの贈り物だと捉えています。そのため、私のジュエリーには未処理の天然石のみを使用しています。

  • 今のお話から、あなたが魅力に感じる宝石は1点ものが多いように感じました。ハイジュエリーブランドのアプローチとも異なりますよね?

    • W

      その通りです。一般的に宝石の価値は、色、透明度、カットなどの正確な基準によって決まります。通常、ハイジュエリーブランドはこれらの厳しい基準を満たす、完璧な色のサファイアやダイヤモンドを使います。さらに、彼らのビジネスは大規模に展開されているため、世界中で一貫して同じものを生産しなければなりません。

      対照的に私のジュエリーはそれぞれの宝石の個性を重視しています。インクルージョン(内包物)をユニークな魅力として受け入れることも多いのです。私にとって最も重要なのは、宝石と出会ったときに経験する高揚感とインスピレーションへの力強い感覚、つまりその宝石を使って特別なジュエリーを作りたいという思いです。どんなに美しい宝石でも、その感動を呼び起こすことができなければ選びません。その結果、自ずと1点もののジュエリーが生まれるのです。

  • デザイン面で意識されていることはありますか?

    • W

      私は古典的な技術を理解しながら、目標とするのはクリーンでモダンなジュエリーを手がけることです。私のジュエリーでは常に宝石が主役です。無理に手を加えたり、カットし直したりすることは避け、手を加えることは最小限にとどめるよう心がけています。宝石と組み合わせる金属については、温かみのある色合いとインドへの敬意を込めて、22Kゴールドを用いるのが好きです。ただし、軽量化のために内部をくり抜くことはありません。ボリュームそのものがデザインの重要な一部だと考えているからです。

長きにわたりA&Sでトランクショーを開催してきて思うこと。 年に1回日本に訪れ、A&Sのお客さまと触れ合う時間について。

  • A&Sで初めてトランクショーを開催したのは2007年でした。心に残っている企画は?

    • W

      2014年の〈BOMBAY〉の記憶は鮮烈に残っています。世界有数のダイヤモンド市場であるインドのムンバイ(旧ボンベイ)で出会った宝石をフィーチャーしたコレクションでした。DMのデザインには、現地で撮影したアラビア海に浮かぶインド門の写真を使いましたね。夕暮れ時に撮影したもので、光がとても美しくこの企画にぴったりのイメージでした。
      もうひとつのお気に入りは、2012年の〈Made To Order〉のDMです。親愛なる友人であり、私が深く敬愛するステラ・テナントとコラボレーションしてショートフィルムを制作しました。彼女はクラシックなロールスロイスに乗って田園地帯を走りながら、私のジュエリーを身に着けていました。バックミラーに吊るされたアンティークのローズカット・ダイヤモンドが美しく揺れていたのを今でも覚えています。

 
“BOMBAY” (2014年)
“Made To Order”(2012年)
  • A&Sで会う日本のお客さまの印象や、日本での過ごし方は?

    • W

      幸運なことに、私にはアメリカをはじめ多くの国々のお客さまがいらっしゃいます。特に日本のお客さまは、宝石の美しさに対する私の考え方に共感し、宝石にまつわる私の話に喜んで耳を傾けてくださいます。そのジュエリーがご自身に似合うかをじっくりと検討され、時には一旦その場を離れ、後日また戻ってこられることもあります。真摯にものに向き合う姿勢がとても素敵です。

      私は毎年、日本の冬を訪れることを楽しみにしています。毎回さまざまな地域に赴き、息をのむような景色や独特の文化を体験します。次回はぜひ家族と一緒に日本を旅行したいですね。

PROFILE

イギリスのコッツウォルズで、ダイヤモンドを中心に独創的なジュエリーを展開しているウィリアム・ウェルステッド。ときにインクルージョン(内包物)すらデザインに取り入れ、原石の個性を最大限にを引き出すことに重きを置いたクリエーションを続けている。

イギリスのコッツウォルズで、ダイヤモンドを中心に独創的なジュエリーを展開しているウィリアム・ウェルステッド。ときにインクルージョン(内包物)すらデザインに取り入れ、原石の個性を最大限にを引き出すことに重きを置いたクリエーションを続けている。

Photos by Wataru Kitao

ARTIST

William Welstead