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Interview with Kenta Anzai

今年2月に、ARTS&SCIENCEでは初となる陶芸家・安齋賢太氏の初の個展を開催。故郷・福島県郡山市を拠点に作陶を続ける彼に、これまで積み重ねてきた制作の延長線上にある今と、これからについて話をうかがいました。

大学卒業後、一般企業に勤めながら自分の進む道を模索していた安齋氏は、20代後半で陶芸の道へと転身しました。京都伝統工芸専門学校で基礎を学んだ後に渡英、個性豊かな作家が集う環境の中で制作の幅を広げます。帰国後は伊豆で陶芸家・黒田泰蔵氏の仕事に触れながら技術を深めていきました。そして2010年に自身の工房を構えて以来、独自の表現を追い求め続けています。

 

制作では、漆を混ぜた土を塗り、丹念に磨き上げる工程を複数回繰り返します。そうして現れる黒い作品の表情は、深みと静かな光を湛えた質感として立ち上がります。

初個展 ─ 存在としての制作

  • ARTS&SCIENCEでの初個展を迎えた今のお気持ちを教えてください。

    • 安齊(以下A)

      率直に、嬉しいですね。2016年にHIN京都ができた頃からのお付き合いなので、「やっとできた!」という思いです。制作の都合や他所での展示が重なり、ようやく実現しました。展示会のたびにソニアさんやスタッフの皆さんが足を運んでくださっていたことも励みになっていましたし、いつかご一緒できればと思っていました。今回、それが自然な形で叶ったという思いです。

  • 個展はA&S青山での開催となりました。ファッションの空間で展示することについてどのように捉えていますか?

    • A

      道具として使う器というよりも、空間の中に置かれる“ひとつの存在”として見てもらえたらと思いました。自分の好きな場所に、気に入ったものをひとつずつ置いていくような感覚に近いかもしれません。

      今回は、花器としても使える作品を多く制作しています。これまでホテルやレストランからの依頼で数多く手がけてきましたが、そのような場では常に花が活けられているとは限りません。この経験から、花が活けられることを前提とするのではなく、作品が単体でしっかり成立することを意識して制作しています。何もなくとも作品自体が自立していること。私にとって重要なことです。

  • 以前、花器は制作しやすいとお話しされていましたね。

    • A

      形を“まとめやすい”という意味では、そうですね。高台から肩、そして口へと連なっていく構造は、それぞれのパーツごとに細やかな調整ができるので。服にたとえるなら、パンツ一枚で完結させるというよりも、シャツやジャケットを組み合わせながら、全体のバランスを整えていく感覚に近いでしょうか。とはいえ、工程としては決して簡単ではないんですけどね。

制作の核 ─ 違和感のないかたちを積み重ねる

  • 制作で最も大切にしていることは何でしょうか?

    • A

      「違和感がないこと」でしょうか。丸いものはやわらかく、四角いものは硬い。赤は熱く、青は冷たい。こういった人が本能的に持っている感覚とずれていないか。そのことをいつも大切にしています。知識で組み立てるのではなく、生まれつき備わっている感覚に沿って、少しずつ調整していくようなイメージです。違和感のないものを一つひとつ積み重ねていくこと。それが、自分らしい仕事だと思っています。

  • ご自身の作品における「個性」とは、どのようなものだと思われますか?

    • A

      「その人からしか出てこないもの」があることだと思います。いくら作品を「いいね」と言われても、隣の店でも買えるなら意味がない。「ここで手に入れないと」と思わせる何かがなければ成り立たない仕事です。出さないようにしても滲み出るものが、本当の個性だと思っています。自分の中で違和感のないものを追い続けること。それが結果的に、その人にしか作れないものになるのではないでしょうか。

  • 理想像や目標とする作家はいますか?

    • A

      尊敬する作家はたくさんいます。ただ、誰かを目指しているわけではありません。自分は自分でしかないと思っていますし、目の前のことを全力でやるだけです。その先で、まだ誰も見たことのない景色が見えたらいいな、とは思います。

黒の表現 ─ 試行錯誤の積層

  • 作品に見られる独自の深い黒が印象的ですが〈陶胎漆器〉とは異なるのでしょうか?

    • A

      そう呼ばれてもかまわないのですが、多くの方が想像される“陶器に漆を塗る”というニュアンスとは少し異なるように思っています。自分の感覚では、陶器に土を塗っている感覚に近いので。漆はいわば接着剤のような役割なんですよ。適切な名称がないのでいつも工程で説明しています。

  • 初期の頃には白い作品も制作されていましたが、現在は黒を基調とした表現が中心ですね。何かきっかけがあったのでしょうか?

    • A

      制作については、震災のあった年に一度立ち止まりました。それまで自分が作っていたものは、どこか技術に寄りかかっていたのかもしれないと感じたんです。ちょうど同じ頃、美術館で3Dプリンターによる作品を目にして。その作品に衝撃を受けました。「いずれ機械が人の手を超える時が来る。技術だけでは生き残れないのではないか」と。だからこそ、もっと根源的な力を持つものを作らなければならないと思いました。

      現在の作品は、そうした試行錯誤のなかから生まれてきたものです。黒を選んだというよりも、模索の過程でたどり着いた表現でした。

  • 黒の表現を一貫されていますが、そのなかでの変化はありますか?

    • A

      常に「今がベスト」と思って作っていても、翌年にはその感覚は変わります。以前は変化の幅がもっと大きかったように思いますね。最近ではその揺れ幅は小さくなってきましたが、それでも更新は続いています。過去に手がけた作品と、新しい作品を並べる時は、新しい作品に合わせて手を入れたりもします。

これから ─ 新たな白へ

  • 最後に、今後についてうかがわせてください。

    • A

      2030年には50歳になります。体力的にも技術的にもひとつの節目になるでしょう。大きな作品を制作できる時期に限りもあります。これまでありがたいことに展示の予定が続いてきたので、ここで一旦手を止めて、自身の制作について落ち着いて考えたいと思っています。あとは、少し充電期間を持てたら嬉しいな、と。

      数年前から、白い作品の制作に取り組み始めています。以前にも白を用いたことはありましたが、今回はそれとはまた異なる、新たな白の表現になると感じています。どのようなものになるかは、まだ言葉では説明できないのですが。いつか発表できたらと思っています。

PROFILE

安齊賢太

陶芸家。1980年生まれ。会社員を経て陶芸を学び、2010年に独立築窯。土中に糊材として混ぜた漆を何層にも塗り重ねた後、焼成と磨きの工程を経て生まれる他にはない「黒」の作品は、強度を兼ね備えながら、深みのある色味と質感、そして形の美しさを合わせ持つ。

Photos by Tomo Ishiwatari
Floral decoration by Mario Hirama