ARTS&SCIENCEで初めて開催したふたつの展示
ARTS&SCIENCEとの出会いは2011年。とある企画にお声がけをさせていただいたんです。残念ながらその企画は実現しなかったものの「いつか、あなたと仕事がしたい」とソニアさんが言ってくれて。そして、2012年にA&Sがカラフルな天然染めのコレクションを発表する際に「このコレクションをイメージしたグラスを制作してほしい」というお話をいただきました。ピンクや黄色、グリーンにブルーといった色とりどりのグラスを並べた“楽しい気持ち/collaboration with A&S“と“再生する青/reclaimed blue project”というふたつの展覧会をA&Sで開催したんですよね。初めての会場で、同時に異なるコンセプトの展示を二箇所で開催するという思い出深い企画になりました。reclaimed blueはこの展覧会が初披露の場になりました。
溶かして別のものに作り変える - reclaimed blue -
reclaimed blueは「いつでも工房に戻してくださいよ」というスローガンを掲げたシリーズです。“もの”はいつの日か要らなくなったり壊れたりするときがくると思うから。そうなったら、溶かして別のものに作り替えましょうよ、という私からの提案なんです。制作をするのは1年のうち1ヶ月ほどで、黒い色のガラスを溶鉱炉で溶かすと濃いブルーに、ピンクやイエローなどのカラフルな色だと淡いブルーになります。最初の頃は、このブルーの濃淡が出るロジックがわからなくて、廃材ガラスを色分けせずにミックスした状態で溶かしていました。だんだん仕組みがわかってきて、色の違いを出すことにより制作の幅が広がっていったんです。
元のガラスに戻そう - glass ⇄ plastic -
glass ⇄ plasticもreclaimed blueのようにリサイクル的な意味合いを持つシリーズだと思われがちなのですが、実は違います。私が古いプラスチック製のお菓子箱やコップをコレクションしていまして。キッチュで可愛いという理由で。ある日これらがガラスの写しとして作られていることに気づいたんです。日常よく使うものや持ち運ぶものは、ガラスだと割れてしまうことがある。だから、プラスティックを用いて同じ形状で表現しているわけです。それを「元のガラスに戻そう!」という発想からから生まれたのがこのシリーズです。
手がける作品への想い、作家として
私が手がけるものは日用品であり美術館やギャラリーに飾られるものではないという思いが根本にあります。朝、水を飲むときにグラスに触れてもらい「よし、今日も1日頑張ろう」と思ってもらえるような存在になってほしいですね。小さな元気が与えられるような。グラスそのものに込めたコンセプトもあるので、その要素を日々のなかで少しでも思い出してもらえると嬉しいです。reclaimed blueのグラスを手にしたら「いつか要らなくなったら溶かしてもらおう」とか。なるべくたくさんの人の家で自分の作品が生きてほしいです。
工芸をやる者として、ものの裏側にあるメッセージやフィロソフィーを大切に制作していきたいと常々考えています。私のこれまでの人生は、ガラスに捧げてきた人生といっても過言ではないです。ガラスを作ることからは離れられませんし、生活を大事にしていきたい。そして、ひとにどんなことをしてあげられるかを考えていきたい。ガラス、生活、愛情。この3つの要素が私の基盤なんです。
PROFILE
ガラス作家、美術家。1964年石川県に生まれる。カリフォルニア美術大学卒業後、金沢卯辰山工芸工房ガラス工房専門員を勤め、1999年にガラス工房「factory zoomer」を設立。ガラス器の新しいスタンダードを目指し、制作に従事している。2005年には「factory zoomer/shop」をオープン。2010年に生活工芸プロジェクトのチーフディレクターを務めるなど、既成のジャンルにこだわらず、独自のスタイルで活動する。
- ARTIST
辻和美