TOSAI 東哉(とうさい)

伝統的な京焼きを基とし、京都の雅を保ちつつ東京の粋を取り入れた創作を続ける〈東哉(とうさい)〉。清水寺のふもとの工房で意匠創作され、熟練した職人により生み出される巧芸品の製作背景とその歴史についてご紹介します。

東哉について

絵付け工房や倉庫も併設した京都清水売舗のエントランス

東哉は大正8年(1919)初代陶哉により京都で創窯され、昭和11年(1936)に先代東哉が銀座へ売舗を開設しました。自由な発想と感性で四季が感じられるデザインを生み、豊富な造形バリエーションを誇りつつも日本の器独特の良さと美意識を大切にしながら、現代の感覚に合わせた創作をしています。

現在は、京都・清水寺のふもとに位置する茶わん坂と、銀座・金春通りにそれぞれ店を構え、基本的に卸は行わず製造直売で使い手に寄り添った販売方法をとっています。
この度、ARTS&SCIENCEでは、京都・HIN / Arts & Science での展開に続き、オンラインショップ・POP-UP SHOPでも特別にご紹介します。

絵付け工房や倉庫も併設した京都清水売舗のエントランス
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東哉のうつわ

東京銀座新店の店内

東哉の器は「粋上品」と言われる事が多く、それは、京都の雅ではんなりとした美意識と東京のすっきりとした粋さからくる表現です。
東京出店を決めた先代の口癖も「雅も過ぎると重くなる、粋も過ぎれば品がなくなる」だったそうで、その感性による試行錯誤の末に、キリッとした薄手のフォルムに繊細で美しい絵付けが施された、粋上品とも言われる東哉ならではの器が生まれました。
現在の当主・山田東哉さんより面白いお話が。子供の頃、父である先代東哉に連れられて街を歩いていたところ、ふと通りがかった古物屋の奥に祖父である初代陶哉の器を見つけ、購入したことがあったそうです。そこで父に「道端からみて、あれほど小さくしか見えないのになぜわかるのか」と尋ねたところ、「ウチの匂いがするんや」と一言。このエピソードは、その説明しきれない“匂い”こそが代々引き継がれている東哉ゆえの魅力であることを表しています。

東京銀座新店の店内
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小津安二郎監督と東哉

絵付け作業途中の汲出

先代の頃から銀座の店は歌舞伎役者や映画人などが出入りするようになり、映画監督の小津安二郎(1903〜1963)もその一人でした。小津監督が、ちらりと映り込む陶器や絵画などにも本物を求めたことは有名な話。

戦後、映画に登場する器や絵画等の提供および、それらの美術品に関するアドバイスを行っていたのが「東哉」の先代・山田隼生氏(1914〜2001)でした。実際、映画にも東哉の器が多く登場しており、食卓の上での箸や器の置き方などもそのこだわりが示唆されていたとのこと。本物志向の小津監督は先代東哉の趣味を信頼していたと言われています。

絵付け作業途中の汲出
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支える職人技

現在、京焼を取り巻く環境に限らず、物作りを支える職人と器作りに必要な道具が減少の一途を辿る残念な状況です。
例えば絵付けで使用する絵筆はサイズも様々で、器のサイズや形、絵柄により使い分けられています。一部の絵筆の生産が終了し、描けなくなってしまった柄もあるそうです。繊細で緻密な絵柄は任せられる職人が限られているため、熟練した技がないと生み出せないものも多くあります。

そして、薄く整った器の成形は、作家による1点ものとは異なる魅力があります。同じ形をいくつも作ることができる卓越した技術は、一朝一夕にしてならず、京焼の歴史と職人ひとりひとりの経験の積み重ねと勘により成り立っています。

ろくろによる成形と絵付け作業風景

通常、直売のみで販売される東哉の器。ARTS&SCIENCEでご紹介できるこの貴重な機会に、ぜひお手にとってお使いください。

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