アートブックには、手にとってページをめくるという体験が大切な要素となり、体験を伴うことで本の中に記録されている情報以上のものが伝わる表現としての側面があります。特に2000年代以降、インターネットが世の中に浸透していくのと同じスピードでアートブックの表現も変化してきました。近年はさらに多様化し、気軽に手にとれる芸術の役割を担いつつあります。
実店舗を訪れることについても、この数年で変化がありました。お店の空気を感じながら、探していたものや知らなかったものを見つけ、手にとり、スタッフと店頭で会話を交わすことは、単純に対価を払ってものを手に入れるよりも貴重な体験だと感じる方が増えたのではないでしょうか。
今回は近年に出版されたアートブックの他にも、マルチプルや、POSTで展覧会を開催した作家の作品などを揃え、会期中にはPOSTのスタッフも数日在店して本をご紹介します。外に出かけるのが心地よくなる5月、「POST in KYOTO」にぜひ足をお運びください。
〈特集〉
本企画は、POSTによる独自の視点でフューチャーするテーマを3回に分け、さまざまな本をご紹介していきます。4月28日からは日本のアーティスト森田幸子による“Time in Air, Time in Paper”、その後テーマにあわせて、5月12日と5月22 日にラインナップの入れ替えを予定しています。どうぞお楽しみに。
森田幸子は、武蔵野美術大学で彫刻を学んだのち、フランスのナントにあるエコール・ボザールへ留学。日本を離れる前にオブジェの写真を撮り始めた。現在に至るまで、古くからある素材を使いながら自身の試みを重ね、独自のプリント方法を考案し続けている。
彼女の作品制作プロセスは、イタリア製水彩画紙に刷毛で感光剤を塗布し、自らの印画紙を作ることから始まる。35mmフィルムカメラを使い自然光の中で撮影された花や物の写真を、アンティークの引き伸ばし機を用い印画紙に焼き付ける。その後、水と絵筆で影を描くように感光剤を取り除く。だからこそ、彼女の作品の特徴であるドローウィングのような直感的な被写体の輪郭には、瞬間的な時を捉える写真的側面と、線や影を定義しながら時間を経て完成させる絵画的側面の、ふたつの表情が垣間見える。“Time in Air, Time in Paper”では、そのふたつの側面による51作品が再編されている。