Loading...

Interview with Tsuyoshi Tane – vol.2

先月フランスにて芸術文化勲章のシュバリエを授与された、パリに拠点を持つ建築家・田根剛さん。vol.1では、ARTS&SCIENCE青山の内装に携わってくださった田根さんに、オーナーのソニア パークとの出会いや内装を手がけるに至った経緯、そのコンセプトについてお話しいただきました。vol.2では、建築家における仕事や想い、そして服に求めることについてうかがいました。

Portrait by Takashi Homma

建築家・田根剛さんのお仕事について感じていること、その想い

    • A&S(以下A)

      田根さんは、個人宅からお店、そして美術館など多岐にわたる建築のお仕事をされていらっしゃいますよね。これから大きなホテルにも携わるとうかがっています。それぞれ異なりますがどの分野がお仕事として一番面白いですか?

    • 田根(以下T)

      難しい質問ですね。案件の規模感とか内容は全然気にしていないんですが、手がけているものは、ひとつとして全く同じものにはならないんです。場所や施主、関わる職人が毎回変わるので、こういった関係性を含めていずれも仕事として楽しみながら向き合っています。

    • A

      では、田根さんが建築家として一番大切にしていることはどういったことでしょうか?

    • T

      場所です。まず場所があって、建築が出来上がって、人が使っていくという順番ですね。この順番でイメージを掘り下げていくと良い建築になると思っています。以前、あるインタビューで「 建築の主役は?」という質問をされて、ぱっと浮かんだのが場所だったんですよね。建築って建て替えられてしまうと忘れ去られていくものなんです。時代や人が変わっても場所をつくっている建築は残っていきますし、場所と建築が一体になっているものは時代を乗り越えていけます。使い方や人が変わっても建築と場所が常に一緒にある、といいますか。

    • A

      最近「次世代に残るものを作りたい」という言葉を耳にしますが、次世代が残したいと思うような素晴らしいものをつくるべきではないのかな、と思ったりします。素晴らしいものだったら「残したい」と思ってくれるはずですし。“残す”ことが何よりも先にくるのはちょっと違うのかなと感じますね。

    • T

      そうですよね。すごくわかります。

    • A

      では、建築家としてのお仕事で大変に思うことはありますか?

    • T

      強いて言うなら…減額ですかね。減額調整っていうのが最近は当たり前になってきていて。以前は、施主と設計者が直にコミュニケーションをとっていて、その内容をベースに施工会社の提案があって。色々と工夫をしながら、時間を掛けてでもどうにか双方が目指す良いものを作ろう!というモチベーションがあったんですよね。今は…時間を掛けずに利益を出すことが優先されてしまうことが多いと言いますか。良いものを作ろう、良い仕事をしようというのが二の次になっているように感じます。そして、そのやり取りに多くの時間が取られてしまう。建築ではなく予算が中心になっている仕組みは健全じゃないように思います。

    • A

      これはなかなか深く難しいお話ですね。日本だけではないかと思いますが、大規模な建築案件には大手をはじめ多くの企業が関わりますよね。利益配分も複雑だと思います。

    • T

      コスト、時間、労力を万遍なく考慮した上で、正常な物づくりの現場にできる方向にしたいと思ってます。

©Atelier Tsuyoshi Tane Architects

服に求めることは?

    • A

      では、最後にA&Sらしい質問をさせてください。田根さんが服に求めることはどんなことですか?

    • T

      まずは快適であることでしょうか。あとは、気分を変えることや季節感に合うものを求めますね。個人的には、ビシッとした感じよりもゆったりとしたものが多いかな。自由に身体が動かせて、どこに行っても安心できる服が好みです。服といえば、パリで道を歩いていると「あ、美しい服を着てらっしゃいますね」と知らない人から気楽に声をかけてもらえたりするんです。フランスの素敵な文化だと思いますね。

    • A

      すれ違う人の服を見て、お互いの個性を褒め合うという文化ですよね。服を着ることによって、その人らしさが生まれて。ひとつのアイデンティティだったりしますよね。

    • T

      私の場合、ファッションが好きというよりは、幸いにも仕事を通して、ソニアさんをはじめ服に精通されている方と関われる機会がたくさんあって。そんな方々が手がける服を着ることができる喜びがあります。ものをつくっている方と出会えて、その人の仕事を自分の身に纏うことができる。これは、建築家でよかったと思うことのひとつです。

    • A

      それは嬉しい機会ですね。ぜひ、今後ともA&Sのお店にもいらして頂き、お買い物の愉しさを 味わっていただけると幸いです(笑)このたびは、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。

Interview with Tsuyoshi Tane – vol.1〉はこちら

 

田根さん着用アイテム/Night Short Shirt

PROFILE

田根剛

建築家。1979年東京生まれ。ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architectsを設立、フランス・パリを拠点に活動。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』(2016)、『弘前れんが倉庫美術館』(2020)、『アルサーニ・コレクション財団・美術館』(2021)、『Vitra – Tane Garden House』(2023)、『帝国ホテル 東京・新本館』(2036年完成予定)など多数。フランス国外建築賞グランプリ2021、フランス建築アカデミー新人賞、エストニア文化基金賞グランプリ、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞、フランス芸術文化勲章シュヴァリエ 2022など多数受賞 。著書に『TSUYOSHI TANE Archaeology of the Future』(TOTO出版)、『弘前れんが倉庫美術館』(PIE International)など。